人類史で最も人間に寄生するのに成功した病原菌は何かご存知ですか? それは、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)です。ピロリ菌は、少なくとも、20万年前からヒトの周りにいました(笑)今でも、生涯この菌の保持者で、しかも自覚症状のない人は珍しくありません。
実際、世界人口の約66%がこの菌に感染しているそうで、発展途上国ではさらにその保持率は高くて、80%の大人と10%の子どもがこの菌を持っていると言われています。
この菌を持っていても、特に自覚症状がないことが多いですが、それでもピロリ菌がいると胃がんになる確率は6倍に跳ね上がります。また、胃潰瘍や胃炎、また食道部分や小腸の潰瘍など、これは消化器系問題の根元となります。
ピロリ菌とは?
ここで、ピロリ菌とは一体、どんなものなのでしょうか? ヘリコバクター・ピロリは、らせん状の形をしたバクテリアです。ちなみに、ヘリコバクター」の「ヘリコ」は「らせん形」を意味する「ヘリコイド」からきた言葉で、ヘリコプターの「ヘリコ」も同じ意味です。ピロリ菌も、鞭毛をくるくると旋回させながら、ピロロロ・・と移動していきます。名前も、その動き方もかわいいっぽい感じですが、やってることは全然かわいくありません💧
胃粘膜は強力な酸である胃酸に覆われているため、従来は、細菌も存在できないと考えられていました。しかし、最近の研究により、胃の中でも存在できるピロリ菌という細菌がいることがわかりました。ピロリ菌は、「ウレアーゼ」という酵素を出して、自分の周りにアルカリ性のアンモニアを作り出すことで、胃酸を中和しながら、厳しい環境であるはずの胃の中で平気で暮らしているのです!
この菌は、胃や十二指腸(胃に続く、小腸の最初の部分)に慢性炎症や感染を起こします。 このタイプのバクテリアは、消化器官内に潰瘍を形成するサイトカイン(細胞空胞化毒素またはVac-Aという)をつくりだすので「潰瘍バクテリア」と呼ばれたりします。
では、ピロリ菌は体のどこに見つかるのでしょうか? ヘリコバクター・ピロリは、主に胃や十二指腸を覆いながら守っている粘膜の中を棲み家にしています。このバクテリアが胃の内膜に炎症を起こさせると、潰瘍が出来ます。 ピロリ菌は、十二指腸潰瘍の90%以上、胃潰瘍の80%ぐらいを起こしていると言われています。
ヘリコバクターピロリ菌は感染するか? はい、ピロリ菌は主に経口感染で移ります。日本では、上下水道の整っていなかった戦後の時代に井戸から水をくみ上げて飲んでいた世代や、離乳食として大人の口から口移しでもらっていた60歳以上の世代に特に多かったりします。
ちなみに、小さいお子さんは免疫力が低いので子ども時代に感染しやすく、大人は排菌することがほとんどなので成人後に感染することはあまりありません。
最近では、感染者は減少傾向にあるものの、一度感染するとほぼ一生住み続ける特性があるので、衛生環境の整っていない時代に幼少期を過ごした日本の60歳以上の世代では2人に1人が感染しているのが現状です。
ピロリ菌保持の兆候や症状
先ほど言ったように、ピロリ菌に感染していても、ほとんど自覚症状がない場合が多いですが、ある場合には以下のような症状が出ます:
- 腹部膨満感
- ゲップ
- 吐き気
- 腹部の不快感
症状がより進んでくると:
- 腹痛
- 疲労感
- 胸やけ
- 吐き気や嘔吐
- 黒っぽいタール状の便
- 下痢
- 口臭
- 貧血
- 食欲の減退
ピロリ菌除菌の従来治療法
ピロリ菌に感染しているかどうかを診断するには、呼気検査、便検査、血液検査があります。
ピロリ菌除去の治療には、最低2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬が出されます。 なぜ複数の抗生物質なのか? 一つの抗生物質では、殺せない菌もあるかも、ということで、最低二つの抗生物質が同時に処方されているのです。
潰瘍や胸やけなどがすでにある患者さんには、胃酸を抑える薬として、エソメプラゾールやランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾールなどが処方されます。欧米では、日本人の正露丸的な、ピンクの液体でおなじみのペプト・ビズモ(Pepto-Bismol)やH2ブロッカーが処方されたりします。
これらを合わせると、1~2週間の間、毎日14以上の薬を摂っていることになります。その後、医者はピロリ菌が完全に根絶できたかどうかを見る再検査をします。
それでも、完全に除菌できていなかった20%の人たちは、もう2週間、薬を摂ることになります。(2次除菌)
しかし、ご存知のように抗生物質は同時に体内の良い菌も皆殺しにしてしまうため、除菌に伴う副作用が出るケースが多く、除菌中は1割~3割の人に腹の調子が悪くなる、軟便、下痢、味覚障害などの副作用が現れることがあるようです。また、2次除菌の副作用としては、食欲不振や吐き気、発熱、発疹や痒み、頭痛が出ることもあるようです。これでもかと抗生物質を多用するのですから、当然と言えば当然ですよね。。
9つの自然なピロリ菌除去法
もしあなたが、ピロリ菌の従来除菌法に気が進まなければ、自然な方法もあります。近年は抗生物質に耐性を持つ耐性菌も増えてきていますから、こういった方法があるというのを知っておくのは心強い限りです。
以下に、科学的に証明されたベストな減菌・除菌法をあげてみました。
1.プロバイオティクス
これは、悪玉菌排除に毎回一番に上がってくるものですが、良い菌を増やすと、自然とそれらの良い菌が、悪玉菌を押し出して体から排出してくれます。
2012年に行われた調査では、ピロリ菌を持つ消化不良の患者たちに8種類の菌入りのプロバイオティクスを摂ってもらったところ、40人中13人が完全にピロリ菌除菌が出来たということです。
また、さらに最近の2017年の研究では、抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾールなどの)でピロリ菌除菌する患者さんに、プロバイオティクスも一緒に摂ってもらったところ、完全除菌の成功率が上がり、それと同時に副作用も軽減されたそうです。
【Lactobacillus fermentum、Lactobacillus casei、 Lactobacillus brevis】この三つがピロリ菌と闘うのに特に有効だった善玉菌ということでした。
2.ブラック・シード(Nigella Sativa、ニオイクロタネソウ)
ブラックシード(クミンシードのこと)は、ピロリ菌感染をやっつけられる心強い味方のようです。ブラックシードは、日本ではあまり知られていませんが、イスラム教の預言者モハメッドに「死以外のすべての病気を治す薬」と言われたスーパーフードで、それはがん、糖尿病、高血圧、心臓病、喘息、扁桃咽頭炎、MRSA、ダイエット、抜け毛、肝臓の健康、その他アレルギー、下痢、頭痛、リウマチ、乾癬、腎臓結石・・など、あなたが思いつく病名なんでもに効くとされています(笑)
2010年の研究では、ピロリ菌患者に、オメプラゾール(制酸剤)と一緒に挽いたブラックシード2gを与えたところ、【制酸剤+抗生物質x2】のトリプル療法よりも効果的だったということです。ブラックシードはまた、胃酸を抑えたり消化器系保護作用があるということです。
3.ブロッコリー・スプラウト
ブロッコリー・スプラウトは、芽が出て数日しか経っていないブロッコリーのことです。これは、スルフォラファンという硫黄の入った成分をかなりの高濃度で含んでいます。スルフォラファンは、その抗酸化力と解毒能力で強力な抗がん作用があると言われているものですが、ピロリ菌にも効果を発揮することが分かりました。
また2017年の研究では、ブロッコリー・スプラウトに含まれるスルフォラファンがピロリ菌とそれが引き起こす胃炎を治すだけでなく、NSAIDs(解熱鎮痛薬)による消化器内のダメージからも守ってくれるということが分かりました。
4.緑茶
緑茶は、日本人にとってはなくてはならない飲み物ですが、これもヘリコバクター・ピロリの成長も阻害するということが分かっています。また、ピロリ菌感染前に飲むと、胃腸粘膜の炎症(胃炎)を防ぐことも実験で分かりました。
また別の研究では、カテキン、特にエピガロカテキン没食子酸塩がピロリ菌に対して強力な抗菌パワーを発揮するということが証明されました。緑茶はカテキンの宝庫で、そのカテキンは抗酸化、抗ウィルス、抗歯垢形成、抗がん効果を持ちます。
5.ニンニク
また出てきました、最多出場者の一つ、ニンニクが(笑)ニンニクは、抗炎症特性があり、また自然の抗生物質的な役割もしますから、生と火を通したニンニクの両方を摂ることで、ヘリコバクター・ピロリをやっつけることにもなります。
2016年の研究では、ピロリ菌保持者が中サイズのニンニク2かけを昼食と夕食に一つずつ食べたところ、ピロリ菌の劇的な減少が見られたということです。
6.プロポリス
プロポリスとは、ミツバチが巣を無菌の健全な状態にするためにさまざまな植物から集めた、樹脂性の物質です。科学者がプロポリスの化学的構成を調べてみると、それはなんと、300種類以上の天然成分を含んでいたそうです。これらの成分には、アミノ酸、クマリン、フェノールアルデヒド、ポリフェノール、セスキテルペン・キニーネ、ステロイドなどがあります。 プロポリスエキスはサプリメントなどでも買えますが、それは高濃度のフェノール成分のお陰でピロリ菌の成長を妨げることができる、ということが複数の研究で分かりました。
7・一般的なピロリ菌ダイエット
進んで摂ったらいい食品:
- 発酵食品
- (動物性)オメガ3の豊富な天然魚
- (植物性)オメガ3の豊富なフラックスシードやチアシード
- 紅茶などに入れる適量の生はちみつ、特にマヌカハニー
- ベリー類(ラズベリー、ストロベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、ビルベリーなど)
- アブラナ科の野菜、特にブロッコリーやブロッコリー・スプラウト
出来れば摂らない方がいい、減らした方がいい食品
- カフェイン
- 炭酸飲料
- 漬物
- スパイシーなもの
- 繊維質の少ない穀物
8.ハーブ類
以下のハーブエキスは、ピロリ菌の増殖を阻止すると研究で判明したものです。
- Agrimonia eupatoria(和名:キンミズヒキ)
- Hydrastis canadensis (Goldenseal、ヒドラスチス)
- Filipendula ulmaria(Meadowsweet、セイヨウナツユキソウ)
- Salvia officinalis(セージ)
9.ストレスを減らす
もしあなたがピロリ菌保持者なら、ストレスはその症状をさらに悪化させます。心配や大きいストレスを抱えた人の体は、免疫機能が通常よりも下がって、ピロリ菌感染や胃炎・胃潰瘍の度合いが上がります。日常的に、ストレス緩和出来るものを生活の中に組み込むようにしましょう。具体的な例では、深呼吸したり、ヨガ、ストレッチ、瞑想、鍼灸などです。
ピロリ菌予防にできるその他のこと
- 安全な飲み水: 先進国に住む人には当たり前のことに聞こえますが、これがまずピロリ菌予防には大切です。外国を旅行する際にも気を付けて下さい。
- 清潔を心掛ける: 食事の前やトイレに行った後は手を洗う、また食器やコップなどを他人とシェアしない。(唾液が感染源のため)
- きちんと調理したものを食べる: 清潔な環境で完全に火を通したり用意したものを食べましょう。
注意事項
もしあなたがピロリ菌に感染しているかもと思ったら、出来るだけ早くピロリ菌検査を受けることです。
以下のような症状を経験したら、自分で治そうとせずにすぐに病院に行ってください。
- 食べ物が飲み込みづらい
- 長引く、相当な腹痛
- 血の混じった、黒っぽい吐しゃ物
- 黒いタール状や血の混じった便
- 肋骨の下辺りの絶え間ない鈍痛、または燃えるような痛みがあり、食べたりミルクを飲む、または制酸剤を飲むとましになる
もしあなたにピロリ菌からの症状がなく、それでも検査でピロリ菌がいると判明した場合、それでも除菌した方がいいかどうかは、医学界では未だに意見が分かれているところです。
あなたが薬を飲んでいたり持病があったりする場合は、ピロリ菌除去のサプリメントや食品を試す前に医師に相談して下さい。